税務調査で重加算税を課されるのはどんなとき?

はじめに

「税務調査で“重加算税”が課されました」──これは企業経営者や個人事業主にとって、最も聞きたくない知らせの一つかもしれません。通常の申告誤りと異なり、「重加算税」は“隠蔽”や“仮装”という意図的な不正行為があるとされた場合に課される非常に重いペナルティです。

しかし、重加算税が課されるかどうかの判断は非常に微妙で、「本当に“隠蔽”だったのか」「“仮装”とまでは言えないのではないか」といった主張が対立することもしばしばです。

今回は、国税庁の指針と、実際の裁決・判例をもとに、どのような場合に重加算税が課されるのか、またそれを回避・争うためにはどのような視点が必要なのかを、弁護士の視点から解説します。

1. 重加算税とは?

重加算税とは、国税通則法第68条に基づく加算税で、納税者が「隠蔽」または「仮装」によって所得や税額を過少に申告したときに課されるものです。通常の申告ミスによる「過少申告加算税(10〜15%)」よりも重く、

原則:35%

期限までに申告書を提出していなかった場合:40%

が課されます。

2. 「隠蔽」「仮装」とは?──重加算税の成立要件

税務上の“隠蔽”や“仮装”は、単なる帳簿上のミスや記載漏れとは異なり、明確な「意図」や「工作」が認められることが必要です。国税庁の「重加算税の取扱いに関する事務運営指針」では、以下のようなケースが不正事実(=隠蔽・仮装)に該当するとされています:

(1)典型的な不正事実の例:

  • 二重帳簿の作成
  • 帳簿書類(契約書、請求書、領収書など)の破棄、隠匿、改ざん、虚偽記載
  • 実態のない外注費・架空仕入れ
  • 家族や関係会社を使った名義借り(例えば架空の外注先)
  • 売上の除外、架空経費の計上、在庫隠しなどを指示する内部メモの存在

(2)形式上整っていてもアウトな例:

帳簿や請求書などが形式上整っていたとしても、内容に実体がない場合(=“見せかけの取引”)は仮装と判断される可能性があります。通帳、領収書、社内決裁書類なども精査され、「本当にその取引があったのか」が問われます。

3. 重加算税と過少申告加算税の違い

重加算税は「意図的な隠し」があった場合に課されるのに対し、過少申告加算税は「故意ではない」場合でも、過少申告があれば原則課されるものです。以下のようなケースでは、重加算税の対象とまではされないとされます:

  • 翌期に繰り延べられた売上(例:年末納品分を翌期に計上)
  • 翌期に実際に支出された費用を前倒しで計上していた場合
  • 会計処理の誤解・ミス(例:棚卸評価の誤り)

このような場合は、原則として「過少申告加算税(10〜15%)」の対象です。

4. 裁決・判例でみる重加算税の認定例

実際の争点となるのは、「不正事実=意図的な隠蔽・仮装」といえるかどうかです。過去の裁決・判例では、以下のような判断が下されています:

  • 架空の外注先への支払を装い、外注費を計上 → 重加算税認定
  • 役員報酬を借入金名義で処理 → 意図的な仮装と判断
  • 棚卸資産を少なく計上していたが、内部資料に“利益調整”の指示メモがあった → 隠蔽と認定
  • 配偶者名義の口座に収入を振り込ませていた → 名義借りとして重加算税認定

これらに共通するのは、「外形的に形式は整っていても、実態がなく、かつ意図的であると推認された」という点です。

5. 重加算税を回避・争うためのポイント

税務調査時には、多くの調査官は重加算税を取れるであろう事案(納税者)を選定して、調査に入ります。重加算税を取りに来るといっても過言ではないでしょう。調査官から早々に「重加算税対象です」と告げられることもあります。しかし、それがすべて正しいとは限りません。

以下のような対応が、重加算税を回避する上で有効です:

(1)帳簿・証拠の保全

  • 帳簿や証憑の保存状況を整備
  • 原始資料(納品書、通帳、社内決裁文書など)との整合性

(2)名義関係の明確化

  • 関係会社や家族名義の資産・取引がある場合、その経済的実体を明示

(3)調査対応の慎重化

  • 虚偽や紛らわしい応答は避けるほうがよい(虚偽や紛らわしい応答をすること、又は関係先に虚偽の答弁等を行わせることは、申告時における隠蔽又は仮装を推認させる事項といえます)
  • 安易に調査官のストーリーに応じない(前述のとおり、多くの調査官は重加算税を取りに来ています)
  • 質問応答記録書の作成は要注意(これも、調査官の言うことに従って、思ってもいなかった内容の書面に署名押印してしまい、思ってもいなかった結果を生むことがあります)

6. 弁護士の立場から見た重加算税の争い方

重加算税は「行政処分」であるため、

  • 異議申立て(税務署)
  • 審査請求(国税不服審判所)
  • 税務訴訟(地方裁判所)

といった手続きで争うことができます。

実際の審査請求や訴訟では、以下のような点が争点になります:

  • 課税庁が示す「不正事実」が、果たして本当に“意図的”だったのか
  • 請求書や帳簿等の形式ではなく、「実体的に取引があったか」
  • 名義関係に経済的合理性があるか
  • 過去の税務処理と整合性があるか

弁護士が介入することで、これらの主張を体系的に整理し、立証可能な証拠を組み立てることができます。

おわりに

重加算税は、個人や企業経営にとって大きなインパクトを持つ“リスク”の一つです。納税者にとって「意図的にやったつもりはない」ことであっても、調査官が“意図あり”と判断すれば、高率な加算税が課される可能性があります。

しかし、重加算税の成立には法律上の明確な要件があり、それに該当しない場合には適切に反論していくことが可能です。

弁護士法人リーズ法律事務所では、重加算税に関する税務調査対応、異議申立て、審査請求、訴訟まで幅広くサポートしております。特に、当事務所は、国税局資料調査課で長年にわたり重加算税事案を担当してきた国税OB税理士と共同で運営しており、実務と理論の両面から精度の高い対応を行っています。

税理士の先生方との連携実績も多数ございますので、お困りの方はぜひ一度ご相談ください。

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