はじめに
国際的な相続が発生した場合、被相続人(亡くなった方)がどの国に「住所」を有していたかを判断することは、相続税の適用範囲を決定する重要な要素です。しかし、「住所」とは単に居住場所を指すのではなく、被相続人の生活の本拠や全生活の中心を意味します。この解釈が曖昧な場合、税務署との見解の違いからトラブルに発展することがあります。
以下では、一般的な事例を基に、「住所」の判断基準や税務上の争点について解説します。
住所の定義と判例による基準
「住所」とは、生活の本拠、すなわちその人の全生活の中心を指します。日本の裁判例(武富士事件判決など)では、「住所」を判断する際に、例えば以下の客観的要素を総合的に考慮するべきだとされています。
滞在日数
住所が生活の本拠として認められるには、ある程度の継続性と生活基盤が求められます。一方で、一時的または臨時的な滞在だけをもって住所と判断するのは適切ではありません。
例えば、ある被相続人が長年海外に生活しており、一時的な日本滞在中に他界した場合や、日本を主な生活拠点としていた被相続人が海外での短期滞在中に他界した場合、これら短期間の滞在をもって住所が日本または海外にあったと判断するのは慎重であるべきでしょう。なお、この要素が一番重要視される傾向にあります。
職業や社会的地位
その人がどの国で主に活動し、社会的地位を築いていたかは重要な要素です。長年海外で働き、現地でキャリアを築いていた場合、その国が生活の本拠とみなされやすいです。
居宅の状況
被相続人がどの国に生活の基盤となる居宅を所有し、どれだけ活用していたかを検討します。例えば、広大で設備の整った居宅が海外にあり、それを維持していた場合、その国が生活の中心と見なされる可能性が高いです。
家族・親族との関係
被相続人がどの国で家族と一緒に生活していたかが影響します。家族が全員海外に居住している場合、その国が生活の本拠とされる傾向があります。
資産の所在
資産がどの国に集中しているかも、判断基準の一つです。特に、長期間にわたり形成された資産がどの国にあるかが重要です。
各種届出の状況
被相続人がどの国で公的な届出を行い、納税や社会的な義務を果たしていたかも考慮されます。
国境をまたぐ相続税における課題
住所が一時的な滞在に基づいて判断される場合、被相続人の全生活の実態が考慮されず、課税判断が適切性を欠くことがあります。このような場合、次のような課題が生じる可能性があります。
- 被相続人の生活実態を無視した課税判断となる。
- 日本の相続税法の解釈が不透明である場合、国際的な納税者に不安を与える。
- 国際的な相続の特殊性を反映しない不公正な結論に至る可能性がある。
そこで、「生活の本拠」について公正な判断を得るには、滞在場所や期間の長さだけでなく、全体的な生活状況や生活基盤の実態を慎重かつ正当に総合評価してもらうよう、積極的に税務署側に説明することが求められます。特に国際的な相続の場合、納税義務者は以下のような具体的な証拠を十分に準備し、税務署との対応に臨むことが重要です。
- 海外での長期居住の記録(居住許可証や光熱費の支払い記録など)。
- 海外での社会的活動の実績(勤務記録や地元での社会的関与の証明)。
- 資産の所在や管理状況の詳細。
まとめ
国際相続において、被相続人の住所を適切に判断することは、適正かつ公平な課税を実現するための重要な要素です。特に、被相続人が長年海外で生活していたような場合(で、たまたま日本にコロナなどで避難中に亡くなったような場合)、専門家のアドバイスを受けつつ、その全生活の本拠地を冷静に検討する必要があります。