【再掲】裁決事例の公表(消費税関連の一事例)

(過去投稿の再掲記事です)

国税不服審判所は、令和6年1月下旬に令和5年4月~6月分の裁決例を公表しました。
その中で、消費税に関する良い裁決事例がありましたので、簡単にご紹介します。

国税不服審判所令和5年6月21日裁決

不動産会社が土地と建物を複数一括で取得した事例で、消費税の課税仕入れにかかる支払対価の額の計算にあたり、3つの建物の売買代金相当額の算出方法が争点となった事例です。審判所は、課税当局の算定方法が誤っているとして、原処分を一部取消しました。

要するに、建物と土地を一括して購入した場合、建物に係る支払対価の算定方法が問題となりました。
消費税法30条6項・1項の規定からは、「対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭等の額」を支払対価とするとあるため、建物と土地の売買金額が明確でない場合には、合理的な方法でそれぞれの売買代金を区分し、建物に係る支払対価を算定する必要があると解されると、審判所は解釈しました。

問題は、この合理的な方法、です。これは、取引事例に応じて様々でしょうけれども、今回のケースでは、売買に際して2つの建物について改修工事がされていたことをどう評価するか、不動産鑑定士による鑑定評価があることをどう考慮するか、がキーとなりました。

まず、請求人は建物の売買代金を決定するために、差引法や見積額等比あん分法を提案しました。
差引法とは、土地の取得年分の路線価にその土地の地積を乗じることによりその土地の売買代金相当額を算定した後、これを当該土地及び建物の売買代金の総額から差し引くことによりその建物の売買代金相当額を算定する方法です。
見積額等比あん分法とは、建物の新築工事見積書と土地の見積書を業者から取得して、その按分で建物の売買代金相当額を算定する方法です。
しかし、これらの方法は建物の実際の価値を正確に反映せず、不均衡を生じる可能性があると判断されました。

課税当局が処分にあたり採用した固定資産税評価額比あん分法も検討されました。
この方法は土地や建物の評価を公的な基準に基づいて行うため、一般的に合理的とされました。ただし、2つの建物に対する改修工事の影響が反映されていないことが指摘されました。

これらの2つの建物については、積算価格比あん分法が検討されました。この方法は、納税者が依頼した不動産鑑定士によって算定された、土地や建物の不動産鑑定評価に基づき、積算価格の比から建物の売買代金相当額を割り出しています。これは、特に、建物の改修工事を考慮しており、合理的であるとされました。

結論として、固定資産税評価額比あん分法は1つの建物に対しては合理的であるが、残り2つの建物に対しては合理的なものではなく、積算価格比あん分法によるべきだと判断されました。

寸評

バランスの取れた良い判断だと思われます。何が合理的な方法かを、双方の主張する方法毎に検討し、最終的には、納税者の主張の一部を合理的な方法であると認めています。審判所の考える合理的な方法の評価基準のようなものを先に定立し、それに基づいて、双方の主張する方法をスクリーニングする手法もできたかもしれません(審判所の守備範囲を超えるかもしれませんが)。

ページ上部へ