前回同様、国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・テナンシーにかかわる相続時の課税上の留意点を取り上げます。
ジョイントテナンシーの相続時の留意点
例えば、故人(被相続人)が、米国の例えばニューヨーク州やハワイ州にある土地を、right of survivorship(生存者財産権)付ジョイント・テナンシーの形態で所有していた場合、死後、土地に関する権利は、他方のジョイント・テナンツ(典型的には配偶者)に帰属することになります。
では、故人の配偶者など、他方のジョイント・テナンツが、相続人だったときに、日本の相続税法上、どのように課税関係が発生するのでしょうか。
結論的には、相続税の課税対象になるといえます(次のような国税不服審判所における判断や国税庁の見解からすると、なかなか争っても難しいでしょう。)。
国税不服審判所平27.8.4裁決
被相続人が、長女とともに、米国某州にジョイントテナンシーの形態で不動産を所有していたところ、被相続人の死亡により、長女に権利が帰属することになりました(なお、その後の遺産分割協議書には、当該不動産の記載はありませんでした。)。原処分庁(課税庁)は、死因贈与がなされたとして、当該不動産の現地鑑定評価による価額に長女の相続分2分の1を掛けて、相続税の課税価格に加算する更正処分をしたため、長女側が、相続税の課税価格に算入されるのはおかしいなどとして、争いになりました。
争点: 米国某州所在のジョイント・テナンシーの形態で所有していた不動産が相続税の課税価格に算入されるか
審判所は、次のように判断しました。
ジョイント・テナンシーの形態で所有は、日本民法における「合有」的ではあるがそのものではない。
ジョイント・テナンツの一人が死亡したら、相続されず、サバイバーシップの原則(right of survivorship・生存者財産権)により生存者へ権利帰属する。
それゆえ、「対価を支払わないで利益を受けた場合」(相続税法9条)に該当し、みなし贈与、となる。
分析:
審判所は、国税庁の従来見解(死因贈与)と異なる見解で判断しました。
なお、この点、審判所が国税庁の通達と異なる判断をする場合には、国税通則法99条に規定されるように、審判所・国税庁間の”調整”が行われるのですが、従来見解は通達ではなく質疑応答事例であったため、このような調整は不要であったものと思われます。
もっとも、みなし贈与であるとしても、いわゆる3年内贈与加算(相続税法19条1項)で、相続開始前3年以内の贈与については、贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額をもって、相続税の課税価格とみなすことになってしまいます。ですので、結局は、相続税が課税されてしまいます。
実務上の処理
かつて国税庁は、ハワイ州におけるジョイント・テナンシーによる不動産所有について、ハワイ州法上の制度に基づく処理を尊重して、「当該資産は相続により取得したものとはいえないものの、その当初の取得時に実質的な死因贈与契約を締結したものとみることができるから、相続税が課税されるべき」としていました(上記審査請求における原処分庁側主張も同様です。)。
しかし、上記国税不服審判所の裁決において、みなし贈与と判断されたことを受けてか、現在国税庁ウェブサイトで見ることのできる質疑応答事例(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/02/07.htm)においては、みなし贈与と死因贈与とが併記され、いずれにせよ相続税が課税されるとしています。
この見解は、質問された事例に関して国税庁が回答したものにすぎませんが、実務上大きな指針となっているといえるでしょう。したがって、例えば米国のほかの州でジョイント・テナンシーが問題になった場合の処理においても、同様に処理するのが安全といえます。
ジョイント・テナンシーのまとめ
このように、ジョイント・テナンシーの形態での不動産投資ないし不動産所有の際には、外国の制度上の便宜(プロベート手続の回避)にだけ目を向けるのではなく、日本側で、投資時にも相続時にも課税される可能性にも留意して、専門家のアドバイスのもと取り組まれたほうが良いでしょう。
次回は、ジョイント・アカウントに関する留意点を検討したいと思います。
(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)
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