前回(こちら)、前々回(こちら)では行政不服申立手続、特に審査請求手続について解説しました。今回と次回とで、税務訴訟について解説したいと思います。
税務訴訟の手続(前編)
(1)訴えの提起
税務訴訟(租税訴訟ともいいます。)は、納税者を原告、国を被告とする行政訴訟です。納税者は、国を被告とする訴状を管轄する地方裁判所に提出します。
税務訴訟は、典型的には課税処分の取消訴訟であり、この取消訴訟は、審査請求手続を経たものである場合、国税不服審判所の裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければなりません(これを出訴期間といいます。行政事件訴訟法14条1項本文)。通常、「知った日」とは、裁決書謄本の送達を受けた日です。災害などにあって、正当な理由で出訴期間を徒過した場合は、出訴が許される場合もあります(同項ただし書)。
訴訟は、東京地裁か、課税処分をした行政庁(税務署長等)の所在地を管轄する地方裁判所や、そこを管轄する高裁の所在地を管轄する地方裁判所に提起できます(行政事件訴訟法12条1項、4項)。なお、東京地裁には行政専門部があり、大阪地裁をはじめ全国主要都市の地裁には行政事件の集中部があります(参考リンク)。
訴訟を担当する地裁の担当部では、形式的な審査がなされます。審査項目は、訴状に必要な印紙が貼ってあるか、出訴期間が過ぎていないか、審査請求がされたか、などです。
(2)訴状
訴状に必ず記載されなければならないものには、請求の趣旨と請求の原因があります。
請求の趣旨では、訴えによって求める判決内容を記載します。
請求の原因では、訴えの対象となる課税処分の存在と、その取消しを求めることを記載したり、そのほか、請求を根拠づける様々な事実、事情を記載します。
このほか、訴状には、印紙を貼らなければなりません。
課税処分取消訴訟では、本税額を訴額として、これを基礎に印紙の金額を計算することになります。加算税に関する賦課決定取消請求については、印紙の金額の計算上、訴額に含まれないとされています。また、青色申告承認取消処分については、訴額の算定が困難なものですので、法律上、訴額を160万円とすることになっています。
(3)税理士補佐人
税務訴訟では、税理士が、裁判所において補佐人として弁護士である訴訟代理人とともに、出頭し、陳述をすることができます(税理士法2条の2第1項)。
税理士は、租税に関するエキスパートですし、税務訴訟は、税法の解釈のみならず不動産などの資産の評価が問題になる場面も多く、裁判所において、専門的見地から陳述(主張)することが認められているのです。
(4)答弁書と口頭弁論期日
訴状が送達されると、被告である国は、指定代理人と呼ばれる被告の代理人を指定し、指定代理人らは答弁書を作成、提出します。答弁書提出後、第1回口頭弁論期日が開かれます。第1回口頭弁論期日は、だいたい、訴状受理から1か月~2か月後になります。
口頭弁論期日は、審査請求手続と異なり、公開の法廷で行われます。もっとも、事実関係や法律関係が複雑なものについては、非公開の弁論準備手続に付されることがあります。
このようにして、第1回口頭弁論期日から、何度かにわたり期日が開かれることになります。
再調査の請求手続や国税不服審判所における審査請求手続では、標準審理期間として、それぞれ3か月、1年の期間が設けられ、基本的にこれらの期間は守られていることは、以前解説しました(リンク)。
しかし、裁判手続では、このような期間の目安はありません。税務問題、税務訴訟は、税法の難しさや計算過程が関連することなどから、しばしば1年超、複雑な事件では3、4年と長期化する傾向にあります。
次回も続けて、税務訴訟(後編)について取り上げたいと思います。
(弁護士・税理士 永井秀人)
【リーズ法律事務所では、国税不服審判所に国税審判官として勤務した弁護士・税理士が、納税者の方々の権利のために、税務訴訟や審査請求などの税務紛争、争いのある税務調査に積極的に関与しております。税務事件は実績ある専門家の早期関与が大切です。お気軽にご相談ください。】