今回も、前回に続き税務訴訟について解説したいと思います。
税務訴訟(後編)
(5)専門家意見書
税務訴訟の場合、複雑な税法の解釈が問題となることも少なくありません。そのような場合、大学教授などの専門家の法律意見書の提出をすることがあります。
被告国側は、比較的潤沢な予算と指定代理人陣営(法曹出身者や国税出身者がチームを組んで応対します。)を抱えており、(一見)強固な主張をしてきます。
これに応対するためにも、原告納税者側も、強い武器を持たなければなりません。
そのような場合、著名な専門家の法律意見書を用いるのです(筆者も、大学教授などに対して法律意見書を依頼したことがありますが、非常に快く引き受けてくださる先生方が多いです。)。
ただ、学界でも意見が分かれるような争点に係る事案になると、被告側陣営も、著名な専門家の意見書で対峙することもあります(いわば意見書合戦となります。)。
(6)証拠
税務訴訟の場合、裁判官は、審査請求における国税不服審判所の国税審判官と異なり、実務上、職権調査をすることはありません(行政事件訴訟の場合、裁判所は、行政事件訴訟法24条の規定のように、規定上は、当事者の証拠の申し出を待たずに職権で必要な証拠調べをすることはできます。)。
このことが何を意味するのかといいますと、証拠は、原告納税者(あるいはその訴訟代理人)が集めなければならないということです。その意味でも、審査請求中の証拠閲覧と謄写手続は、訴訟を見据えても重要になるといえるでしょう。
原告納税者が証拠を集める方法で、もちろん大切なのは、自ら収集するということです。例えば、不動産の評価が問題になるような事例で、いわば鑑定合戦になるような場合があります。そのような場合、原告納税者側も、不動産鑑定士に依頼するなどして、鑑定を得るようなことがあります(なお、裁判所が独自に不動産鑑定士に依頼して鑑定をすることは、あまりないようです。)。
また、証拠には物証と人証(証人や当事者本人に対する尋問です。)がありますが、人証調べは、事実関係が争われている場合や、課税処分取消訴訟でしばしばみられるのですが、調査手続の違法性が争われている場合に行われます。租税訴訟の場合、税法の解釈が争われるだけの場合がありますので、その場合には人証調べが行われないことも多いです。
それ以外に、証拠収集のメニューとして、次の3つの方法があります。
- まず、銀行の取引履歴や官公署の保管書類などを入手したいとき、裁判所に対して申し立てることによって、裁判所に職権で調査を嘱託したり、文書の送付嘱託をすることです。
- 2つ目は、しばしば相手方に対して行うことも多いのですが、裁判所から文書の所持者に対して、文書提出命令を発するよう申し立てることです。
- 3つ目は、裁判所の行う釈明処分(行政事件訴訟法23条の2)として、審査請求事件の記録を提出するように求めたり、送付嘱託したりするよう、裁判所に申し立てることです。
(7)判決
1年、2年と戦ったあと、判決となります。一部でも納税者側が勝訴した勝訴率は10.0%(平成29年度国税庁発表。リンク)です。勝訴率5%を切る年(平成28年度)もあり、近年の最高勝訴率が13.4%(平成23年度)ですから、苦情めいた主張の訴訟が分母に含まれていることや、審査請求手続等で納税者勝訴(10%前後)があることを含め考慮したとしても、やはり課税庁(国)側は手ごわいといえるでしょう。
まとめ
今回は、税務訴訟(租税訴訟)を検討しました。
確かに、納税者勝訴率はさほど高くありませんが、よくあるのは、それまでの審査請求手続などでは納税者側が気付いていなかった点を指摘したり、まったく新しい切り口から迫ったりすることで、勝訴への道を切り拓くことは可能であると思います。本当に勝てるかどうかは専門家が精査して、見積もりや勝訴への筋道も考えたうえで、訴訟を提起したほうがいいでしょう。
結局のところ、やはり、費用と時間は掛かるけれども、早期に専門家に委ねるのがベストであると思っています。
(弁護士・税理士 永井秀人)
【リーズ法律事務所では、国税不服審判所に国税審判官として勤務した弁護士・税理士が、納税者の方々の権利のために、税務訴訟や審査請求などの税務紛争、争いのある税務調査に積極的に関与しております。税務事件は実績ある専門家の早期関与が大切です。お気軽にご相談ください。】