はじめに
印紙税法は、全部で24条しかない、短い法律です。しかし、実務上、文書の解釈もあり、時として実に悩ましい問題を生じさせます。
今回から数回にわたり、なるべく分かりやすく、印紙税を解説したいと思います。
事例
印紙は、高額の領収書などでよく目にすることが多いと思います。筆者の場合、M&Aのような取引においても目にすることがあります。合併や分割に関する契約書・計画書がそれです。ちなみに、かつて、たくさんのM&Aを手掛けている会社のデュー・ディリジェンス(法務精査)でこのような契約書を見たことがありますが、印紙が漏れていることに気づいた記憶があります。実は、弁護士も、税理士も、印紙についてはあまり詳しくない法分野なのです。
もっとも、税務署の調査は、M&Aのような単発の取引に関する文書よりも、もっと反復性のある取引に関する契約書をターゲットにしてくることが多いです。日々の取引、業務で作られる文書で、何度も何度も印紙貼付を忘れていて、それが何年も続いているのが税務署にとっては望ましいのです。一つひとつの文書に貼るべきであった印紙は少額でも、何年分も同じ書類が、各地の支店や営業所で累積することによって、時に1,000万円単位の過怠税が課せられる結果になることがあります。
ニュースでも、「葬儀申込書」という一見印紙が必要そうに見えない書類や、「住宅ローン契約の申込書」といった複写式書類のお客様控えにも印紙が必要とされて課税された事案が報じられています。
こういった事例をみると、印紙税はとっつきにくく感じさせられます。そこで、改めて、印紙税法の構造からみていきたいと思います。
印紙税法の構造
文書には、印紙税が課税される文書と課税されない文書があります。課税文書と非課税文書又は不課税文書です。
課税文書と非課税文書は、法律上、それぞれ限定列挙されています。
課税文書といえるためには、いくつかの要件があります。
- 印紙税法別表第一の表の、20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されており(課税事項の記載)、
- その文書が課税事項を証明する目的で作成されており(証明目的)、
- 非課税文書に該当しない文書であること(非課税文書非該当)
です。
しかし、課税文書に該当するかどうかの判断には、難しいものがあります(この判断を一般に課否判定と呼んでいます)。なぜ難しいかというと、文書のタイトルで決められるのではなく、文書の内容を見て個別具体的に決せられるからです(後述します)。
なお、非課税文書とは、それも印紙税法別表第一の表に記載のあるもの(例えば、5万円未満の領収書)や、代表的には、国が作るような文書です(なぜなら、国から印紙代が出費され、国にまた納税されることになり、意味がないからです)。
納税義務の発生(「作成」要件)
ところで、例えば、課税文書を受け取ったら印紙がなかった。受け取った人が印紙を貼らなければならないのでしょうか?
どこかおかしい気がします。なぜおかしいのかは、法律に、印紙を貼らなければならない納税義務者について、「作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある」と書いてあり(印紙税法3条)、「受領者」とは書いていないためです。
課税される(正確には、納税義務が生じる)ためには、このように法律上要件があります。印紙税の納税義務は、課税文書を作成したときに、作成者に生じます。
この「作成」行為は、必ずしも、一般にイメージする文書を作る行為をいうのではなく、課税事項を記載して文書の目的に従って行使することをいいます。
例えば、交付する目的で作成される課税文書(一番の典型例は、5万円以上の領収書です。法的には「受取書」といいます)は、文書の「交付」が「作成」となります。ですので、領収書を作って、交付しない段階では、文書の目的に従った行使がないことになりますので、「作成」がなく、印紙を貼っていなくてもよいことになりますが、交付時には印紙を貼っていないといけないことになります。
また、例えば、契約当事者の意思の合致を証明するために作成される文書は、意思の合致の「証明」が「作成」となります。より具体的にいうと、契約書を締結する際、契約の署名欄の冒頭に、よく「上記契約成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保持する・・・」などという記載があると思いますが、意思の合致の証明が明確に表されている部分です。請負契約書などであれば、そのような文言に基づき、記名捺印したときに、文書の目的に従った行使があったといえるでしょう。
小括
今回は、印紙税の課せられる要件を中心に解説しました。次回はより具体的に解説していたいと思います。
(弁護士・税理士 永井 秀人)