国税局や税務署から納税者が受ける「税務調査」ですが、税務調査とはいったいなんでしょうか?
今回は税務調査の種類と内容について、なるべく分かりやすく説明したいと思います。
税務調査の種類と法的根拠
税務調査には、大きく分けて2種類あります。任意調査と強制調査です。
1 任意調査
任意調査の法律上の根拠は、国税通則法74条の2にあります。国税局や税務署の職員は、質問調査権を認められています。
質問調査権があるからといって、敷地内にドカドカと入ってきたり、金庫を開けたり、勝手にしてよいのでしょうか?任意調査の範囲は、どこまでなのかが問題となります。納税者側からいうと、どこまでが受忍義務なのかということになります。
任意調査の範囲は、単に調査の対象となった納税者や、その帳簿等の書類などにとどまることなく、その関係者とその関係者の帳簿等の書類にも及んだり、その納税者の事業に関するものにも及んだりします。
ですので、受忍義務は、比較的広い範囲にあるといえるでしょう。
もっとも、強制調査とは異なります。意に反する場合、プライバシーが気になる場合には、いったん待ってもらって、税理士や弁護士の立会を求めるべきでしょう(※下記注)。
よく目にするのは、任意で資料を取られ、パソコンのデータも一切合切取られるなど、存分に調査され、さらにはいろいろ事情も(有利不利含めて)聴取されてから、やっぱり疑問に思って専門家に依頼する、というパターンですが、場合によっては「手遅れ」という事態もあります。さらに、無駄に抵抗をしたり調査官と口論したりしたために、場合によっては手加減のない処分を打たれる事態もあります。
あとで、あのような調査は任意の調査じゃないとか、処分がひどすぎるといって争っても、手遅れとなります。
2 強制調査
強制調査の法律上の根拠は、国税犯則取締法1条にあります。憲法の保障がありますので、強制力の発動には、令状が必要です。
令状があるので、強制的に、なんでも取っていきます。金庫も壊します。
刑事事件化(罰金・懲役)が狙いですから、調べを受けるほうは大変です。
しかし、刑事事件ということは、検察官が起訴するわけですから、刑事事件化するには、いわゆるマルサと呼ばれる税務職員(国税査察官)は、検察官を説得しないといけません。その意味で、非常に厳格に、脱税(ほ脱犯)の要件を充足しているかが、検討されることになり、査察官は、その要件充足性を検察官に示すために、大変な苦労(納税者からすると幅広く情報を収集されたり、資料・陳述を取られたり)をすることになります。要件充足性が厳格なため、刑事事件化できないこともあります。
それゆえ、令状を持ったマルサよりも、令状なしの任意調査のもとで、大口・悪質事案を担当する資料調査課(いわゆるリョウチョウ)のほうが恐れられる場合があります(このあたりの詳細は、週刊ダイヤモンド2016年10/8号が分かりやすいでしょう)。
(注)執筆者の個人的な感覚では、税務署(調査担当者)の納税者本人に対する対応と、税理士に対する対応と、国税OB税理士に対する対応と、さらに弁護士に対する対応とには、明らかに違いがあります。国税庁が税理士の監督官庁でもあることに由来するのかもしれませんが、申告をした関与税理士に対する対応は、時に厳しいものがあります。他方、巷間言われるような、いわゆる試験組の税理士に対する対応と、国税の先輩であり、調査担当者も将来なるであろう国税OB税理士に対する対応とを比較すると、後者のほうが丁寧な気がするのは、執筆者だけではないでしょう。そして、弁護士に対する対応は、それらとはまた異なっていて、何をしでかすかわからない異質なものを見る目がある一方で、何を言われるかわからない紛争屋のイメージからでしょうか、丁寧かつ慎重な気がします。ちなみに、弁護士は、誰でも対応できるわけではなく、税理士登録をした弁護士か管轄国税局に通知をした弁護士(通知弁護士といいます)でなければ、税務調査対応や税務署での面談への同席などを拒否されます。したがって、執筆者個人としては、調査対応については、難しい事件であればあるほど、申告をした関与税理士のみならず、国税OB税理士や税務に長けた弁護士で応対するのが、一番効果的だと思っています。
任意調査の内容
ここからは、納税者が一番遭遇しやすいであろう任意調査について、解説していきます。
任意調査には、当たり前ですが、机上でやる調査と実地で行う調査があります。
1 机上調査
国税当局の人的リソース、物的リソースには限りがあります。税務職員は、どこに調査に行くか決めなければなりません。
オーソドックスな調査の端緒は、KSKシステム(詳細)という、申告や納税に関するデータが入ったシステムから税務調査対象者の選定や滞納整理対象事案をピックアップするパターンです。ほかにも、匿名の投書が入ったり、一般のニュースをみたりしたなかから調査の端緒ができたりします。ですので、誰かに恨まれて国税に投書されるということは起こりうることです。
このようにして、いろいろなところから集まってくる資料・情報(確定申告書や法人なら事業概況説明書など)を分析、検討して、調査対象を絞りこんでいきます。
2 実地調査
一般には、きちんと予告したうえで納税者のもとに調査に入ります。悪質そうであれば、現金やマル秘資料を隠されたりすると困るので、無予告で調査に入ります。
納税者が、複数の会社をいろいろな場所(納税地)に持っている場合など、必ずしも申告先の税務署ではなく、国税局や複数の税務署が連携して調査に入ります。銀行に行って、口座情報を調べたりもします。
任意調査のターゲット
税務調査の目的は、不正発見です。不正とは何でしょうか。
例えば、法人の場合は
- 収益の除外
- 費用の過大計上
です。
より具体的には、棚卸資産を除外していないか、仕入・人件費・経費等に架空計上がないか、役員関係の支出(交際費などは典型です。)に不自然なものがないか、などを見ていきます。
なお、その過程で、従業員や役員の横領などの不正行為を見つけたり、組織ぐるみでリベートを支払ってそれを不正に処理していたことが見つかったりします(従業員等の不正の場合の問題点は、次回以降で触れたいと思います。)。
実地調査の方法(法人の場合)
不正発見のために、どのように実地調査をするのでしょうか。実地調査は、どのように行われ、推移するのか、法人の例を挙げて見ていきます。
法人の場合は、納税者の事務所に資料がたくさんありますから、内部証拠を基に調査を進めます。
損益計算書や貸借対照表を分析したり、仕訳日記帳を分析したりして、前期との比較や、業種の平均値と比較して、イレギュラーな取引が見当たらないか、検討します。
また、帳簿書類とその根拠となった書類とを突合したり、請求書などの証ひょう書類にあたったりして、取引記録が正確か、妥当かを検証し、不明な点については担当者に質問します。稟議書、会議資料、報告資料、メールなどの電子データ、メモ書き、付せんのチェックもあります。
さらに、現物の在庫(倉庫)や、現預金などの数量(金庫)をチェックしたり質問したりします。
これら法人内部での調査のみならず、取引先に行き、納税者との取引を確認する反面調査もします。
アドバイス(Takeaway)
今回は、税務調査について概観しました。
税務調査は、結構大変です。
安易に納税者自らの力で対応しようとはせず、調査対応に実績のある税理士や国税OB税理士、税務に詳しい弁護士などの専門家に依頼するべきでしょう。
特に、所得税・法人税では、
- 複雑な取引をして申告していた場合
- 仮想通貨・暗号資産、競馬など新規な取引や珍しい取引から所得を上げて申告していた場合
- 経理処理や申告に経理代行会社や税理士を使っておらず、自社の経理担当が単独や少人数でそれらを行っている場合
- 合併など組織再編を行った場合
- 従業員や役員に不正があった場合
- 海外との取引があって申告していた場合 など
相続税・贈与税では、
- いわゆる富裕層に納税者が属している場合
- 申告した税理士が相続税に詳しくなさそうであった場合
- 海外資産を申告していた場合・していなかった場合
- 故人が複雑な相続税対策をしていた場合
- 故人がたくさんの預金口座を持っていた場合
- 故人が同族会社を経営していた場合 など
には、当リーズ法律事務所の元国税審判官である弁護士・税理士 永井 秀人まで、ご遠慮なく、どんな不安でもご相談ください。
大阪、京都、神戸(兵庫)など関西エリアのみならず、東京・横浜など東京近郊、名古屋・東海エリア、西日本エリアにも対応実績を有しています。
(執筆 弁護士・税理士 永井 秀人)