取消訴訟等の実際
【命令前】措置命令の仮差止申立
まず、措置命令とは、どのような措置を命じられるでしょうか?
・不当表示の取りやめ
・いわゆる社告・謝罪広告(日刊紙2紙以上に掲載+ウェブサイトのトップページに1か月掲載)
などが挙げられます。大きいのは後者です。
そして、措置命令が出ると、多くの場合報道されます。
このため、事業者にとっては、このタイミングで措置命令を出されると困る! という場合があると思います。その場合、仮に命令を差し止めるよう申し立てるのです。
この措置命令の仮の差止め(行政事件訴訟法37条の5第2項)は、「償うことのできない損害」を「避けるため緊急の必要」があることを要件としています。ですので、取引停止や風評被害などの損害が想定される場合には使える手段です。
そして、「本案について理由があるとみえる」場合には、仮差止めが認められます。
実際に行われる手続では、当局側は、行われようとしている措置命令が違法という申立人(事業者側)の説明に対し、「理由があるとみえる」旨主張していくことになりますから、当局は、これから行う措置命令が違法でないと裁判所に説明するため、様々な証拠(疎明資料)を提出することになります。
したがって、これを申し立てる事業者は、うまくいけば措置命令を仮に差止めることができますし(そして多くの場合命令は打たれないことになり手続は終了します)、仮にうまくいかなくても、当局の手持ち証拠を開示させることができます。
しかし、仮の差止めが認められたケースはそれほど多くありません(認容例の代表てきなものに、大阪高裁平成27年1月7日決定・タクシー運賃変更命令の仮の差止め申立についてした決定に対する抗告事件があります)。
【命令後】措置命令の執行停止申立
ところで、措置命令は、命令が出されるとただちに効力を生じます。
理論上は、命令取消を求めて訴訟を提起しても止まりません。
したがって、措置命令を出されて不服に感じていたり、謝罪広告など出したくない、と主張する事業者は、特別の申立によって、裁判所の判決があるまで命令の効力をいったん停止しておく必要があります。
これが、措置命令の執行停止の申立てです。
申立が認められると、通常、第一審(地方裁判所)の判決が確定するまで効力が停止されることになります。
執行停止の要件(行政事件訴訟法25条2項~4項)には、次のようなものがあります。
・「重大な損害」
・ 「避けるため緊急の必要」
そして、これらに反論する当局が主張すべき要件として、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」があることがあります。
その結果、「本案について理由がないとみえる」と判断される場合には、執行停止が認められます。この要件でわかるように、執行停止の申立においても、本案について、つまり措置命令が合法か否かが争点となりますので、後に述べる命令取消訴訟と同様の攻防となります。このため、 執行停止申立の審理は1年~2年とかなり長期化することがあります。
【命令後】措置命令の取消請求訴訟
「本案」の訴訟が命令の取消請求訴訟です。処分の違法性が争われることになります。処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起しなければなりませんので、その間に、様々な証拠を集めて、訴訟を提起することになります。
様々な主張をすることが考えられますが、処分の違法性として、景品表示法の定める法令上の要件に該当しないことを主張する(とりわけ、ガイドラインには違反していない旨などを主張する)ことになります。また、ガイドライン自体が法から外れているとして、ガイドラインの違法性を主張することもできなくはないでしょう。
また、手続の違法性として、調査手続きに違法性があったことを主張したり(例えば、調査時に暴言を受けたとか、弁明の機会の付与がなかったなど)、処分理由に不備があることを主張したりします。そのほか、行政法上の一般原則に基づく主張もあり得るでしょう。
まとめ
よく使われるのは、執行停止の申立と取消請求訴訟の併用です。
景品表示法上の措置命令で執行停止申立や取消訴訟に至った事例は、数件しかありません。しかし、今後の消費者行政の一層の拡充方向を考えると、さまざまな処分に対して、これまで以上に争う機会が増えてくるものと思われます。
ところで、現在の当局の措置命令書に書かれた処分理由は、コンパクトに過ぎるように思われます。これは消費者庁などのマンパワー不足からくるものかもしれません。
しかし、不利益処分をするとき、処分の理由は書面により示さなければならず(行政手続法14条条3項)、その趣旨は、①行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すること、②処分の理由を名あて人に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあります。現在の当局の措置命令書のようなコンパクトな処分理由では、不服の申立てにおいて不便という場面は多いでしょうし、コンパクトな処分理由からは果たして当局が慎重に調査したのか疑念を抱かざるを得ない場合もあるように思います。
理由が不十分な場合、処分は違法、取消しになるため(最高裁平成23年6月7日判決・一級建築士免許取消処分等取消請求事件)、措置命令の理由なども、十分にウォッチしていかなければならないでしょう。
このように、いずれの手続をとるにせよ、法的な論点について高度な議論をすることになります。景品表示法上の調査を受けた場合、手続に不安がある場合、命令に不服がある場合には、なるべく措置命令を打たれる前ーーできれば弁明の機会の付与のあたりから(つまり、上記紛争メニューを選択する前から)、専門家に相談する方がいいでしょう。
ちなみに、以上の手続以外にも、命令後に、行政不服審査法に基づく審査請求も可能ではあります。しかし、消費者庁長官に対し審査請求することになるため、同じ結論になることが見えていると判断される場合が多く、審査請求が選択される場合は多くありません。
~ 景品表示法に関係する商品表示の問題にお悩みの事業者の方は、当事務所までお気軽にご相談ください~
(執筆: 弁護士 永井 秀人)