【スポーツ法】スポーツ問題に対してどのように向き合うべきか

 今回は、小学生のころから野球に親しんできた身として、しばしばニュースや新聞で取り上げられる、スポーツ問題、とりわけ部活動などにおける問題について考えてみようと思います。

 執筆者 弁護士 森村直貴

1 部活動、クラブチームの活動の体罰、いじめ問題

 まず、スポーツの世界においては上下関係が根付いている場合がほとんどです。もちろん、それ自体は悪いことではありません。指導者や先輩、後輩の関係を通じて、礼儀作法や話し方など社会人になってからも役に立つ事柄は非常に多いからです。

  しかし、このような上下関係が時として行き過ぎた行動に変化することがあります。それが、今回取り上げたい体罰、いじめ問題です。

  例えば指導者が選手を指導する時に、単なる指導にとどまらず、暴力を用いた指導という名の体罰が行われることがあります。これはマスメディアでしばしば取り上げられているところです。例えば柔道部の指導者が、選手に執拗に柔道技をかけ、選手がケガをしたり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になって転校してしまう、といったケースも過去には存在しています。

 また、先輩から後輩に対する暴力が行われている場合もあります。

 もっとも、このようなケースはあまり表沙汰にならない場合が多いです。これは指導者がそもそも事情を知らない場合と、仮に知ったとしてもそれを外部に公表せず、学校の中で(無理やりの場合もありますが)解決しようとしている場合とが想定されます。

 

指導者や先輩からの暴力は法的にどう分析できるのか

 さて、上記で取り上げたケースですが、法的にはどのように分析できるでしょうか。

 まず一番最初に思いつくのは暴行罪、傷害罪といった犯罪に該当し得る、ということでしょう。学校内、部活中に起こったから犯罪にはならない、ということはありません。

 また、体罰やいじめなどにより身体的、精神的にダメージを負ってしまった場合には、民事上、加害者に対して治療費の請求や慰謝料の請求も行える場合があります。

 

すぐに警察や弁護士などに相談すべきか?

 大事な子供を傷つけられ、お怒りになるご両親も多いかと思います。実際に、警察に被害届を提出したり、弁護士を通して学校や加害者との話し合いをする場合もあるかと思います。

 もっとも、このような場合には少し留意すべき点があると考えています。

 それは、一旦このようなアクションを起こすと、生徒自身が部活動や学校生活を送りにくくなる可能性があるということです。生徒は転校しない限りは卒業まで同じ学校にいます。そして、このような場合、被害者である生徒さん自身は、周囲が思っているよりも学校生活を送りにくくなる場合が想定されます。例えば、警察に被害届を出したことによりそれがマスメディアに報道され(実名は伏せられますが学校の生徒は誰が被害届を出したのか、瞬く間に情報が拡散されます)、結果として友達付き合いといった従前の学校生活が送りにくくなるのです。

 今日の学校生活は、授業や部活が終わり、帰宅してもラインやSNSなどで容易に友人などとコミュニケーションが取れます。それは裏を返せば、家にいても学校での人間関係から離れることは容易ではないということです。いったん問題が解決したと思っても、ラインなどで恨み節を書かれるケースも想定できます。

 このような事態が起こった際には、問題の解決はもちろんですが、生徒さんが今後、学校生活を過ごしやすいものとする観点からも、慎重に考える必要があるでしょう。その際には、弁護士などの専門家を入れたうえで問題を解決する方がより納得のいく解決策を提示できると思います。

 

2 部活動中の事故について

 近年の気温の上昇により、夏場は気温が非常に高くなってきています。それに伴い、部活動中の熱中症などといった部活動中の事故も頻繁に報道されるようになっています。部活動自体は、生徒がある程度自主性をもって行われるものですが、基本的には顧問等の指導・監督によって行われる場合がほとんどです。

 そうすると、部活動の顧問は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、事故の発生を未然に防ぎ、部活動中の生徒を保護すべき注意義務を負っていると解されています(最高裁平成18年3月13日判決・集民219号703頁)。

 このような注意義務に違反すれば、不法行為(民法709条)や、顧問の使用者である学校にも責任を追及することができます(民法715条)。なお、公立学校の場合には、教師や顧問は公務員にあたりますので、この場合には民法ではなく、国家賠償法1条に基づき損害賠償責任を追及することになるでしょう。

 また、近年では、熱中症の予防対策について、熱中症の病型や救急措置などを解説している「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」が公益財団法人日本体育協会により公表されています(リンク)。このなかの熱中症予防運動指針において、WBGT(暑さ指数)という指数が部活動を行う際の環境が適切であるかを示す指標となっています。WBGTは、気温、湿度、周辺の環境なども考慮して、部活動を行う環境かどうかを測定する数値であり、熱中症予防には非常に有効であるといえます。

 また、裁判例でも、生徒が熱中症になった当時のWBGTはどうであったのか、といった観点から判決を下しているものも見受けられ(大阪地判平成29年6月23日判決、大阪高判平成28年12月22日判決)、WBGTの計測装置は今や部活動を行う上で必要不可欠な物となりつつあります。

(続く)

次回は、スポーツ分野の中でも少し視点を変えて、エンターテインメントとしての側面から、スポーツがどのような位置づけにあるのかを解説してみたいと思います。

 

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