はじめに
国税の通常調査でも大変なのに、査察調査が突然来たら、多くの人はパニックになってしまいます。
最近、弁護士・税理士向けに実施しました査察調査に関するセミナーでの発表内容から、簡単な流れや関心事になるであろうポイントをご報告します(セミナー自体はもっと詳細かつリアルな話でした)。
統計データ
令和4年度の国税庁発表の査察の概要(令和5年6月発表)によれば、検察庁への告発件数が103件で、告発された脱税総額は100億円。1件当たりの脱税額は平均して97百万円でした。
特に、コロナ下の令和3年度と比較すると、告発件数と脱税総額の両方が大幅に増加し、告発率も74.1%と、平成18年度以来の高水準となりました。
消費税に関する事案も増加しており、令和4年度には34件の消費税事案が報告されています。これらの事案では、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正還付事案が多く、例えば、輸出物品販売場が外国人観光客に対して架空の課税仕入れや輸出免税売上を計上する事案などが告発されています。
国際事案についても、令和4年度には25件の事案が報告され、外国当局との情報交換や外国法人を利用して不正を行った大規模な国際事案が告発されました。さらに、その他の社会的な事案として、トレーディングカード販売業者の法人税法に関する脱税事案や、SNSを利用して多数の求職者を勧誘する所得税不正還付事案、大手繊維会社の元従業員による無申告脱税事案が報告されました。
査察制度
査察制度の趣旨は、悪質な脱税者を追及し、一罰百戒の効果を通じて適正で公平な課税を実現し、申告納税制度を維持することとされています。脱税とは、国税通則法や各税法に基づいて課税される税金を逃れる行為であり、節税や租税回避行為とは異なります。
脱税者に対しては、罰金と納税(本税、重加算税、延滞税)が課されますから、かなりの金銭的負担となります。
内偵・臨場
内偵は銀行調査や尾行などを含む事前の調査で、業種による傾向分析や財務諸表の分析などが行われます。一方、臨場(ガサ)は急襲捜査で、しばしば大規模なものになります。臨場を予知するのは難しいです。捜査のために必要な令状が裁判所から発行され、実施されます。捜査の過程で証拠の押収が行われます。なお、令状や黙秘権など、憲法上の権利は保障されています。
調査
調査の行く末を知るため、国税査察官の立場からの視点が重要です。査察官の調査に使用する方法(フォレンジック調査など)を認識し、その進行具合を、査察部とコミュニケーションを取りながら、把握する必要があります。調査には非常に時間がかかります。これは、査察官が、脱税行為を緻密に立証するために、財務諸表や帳簿書類、取引関連の書類、契約書など多くの証拠を確認することになるためです。
身柄拘束
査察事件で逮捕勾留されるケースは、他の刑事事件に比べてかなり少ないです。最近では、海外で脱税指南していたとされる個人が、帰国要請に応じて帰国後逮捕されたことが報道されていましたが、これは特殊なケースと言えるでしょう。
起訴と不起訴
査察官が事案検討会などで調査結果を検討します。検察官も事実上検討内容を把握しており、告発になりそうな事案の情報共有をしています。ですので、告発された案件は、通常、起訴となります。
しかし、必ずしも告発に至るわけではなく、脱税額が小さい、客観的な証拠が不足している、主観的な証拠が不足しているなどの理由で告発されない、不起訴となるケースはあります。弁護人は、不告発・不起訴に向けた弁護活動を行うこともあります。
告発の段階で、報道がされることが多いです。重大な事件は、その後も、起訴、求刑、判決の都度、報道されることがあります。これにより、銀行取引、公共入札、取引先との取引に支障が出ることがあります。
刑事裁判
刑事裁判では、個人、法人および法人代表者が刑事責任を追及されます。裁判は、通常3回から4回の期日で終わるべく進行します。証拠を詳細に検証されますが、証拠の内容で争われることは稀です。
懲役刑と罰金が求刑され、多くのケースでは、判決により執行猶予が付きます。
修正申告と納税
修正申告するとともに納税することで、告発を避けて不起訴を獲得することが容易になる場合があります。また、起訴後の刑事裁判においても、情状との関連で、裁判所から、必ず、本税、重加算税、延滞税等の納税の有無を聞かれますし、弁護人としても積極的に主張していきます。
まとめ
査察事件になりましたら、関与されている税理士に相談するとともに、弁護士にも早めに相談するようにしてください。その後の流れも分からず、身柄を取られるか不安な状態でいるよりは、一刻も早く、専門家に相談することをお勧めします。